慶應義塾大学 総合政策学部 サイバー防犯教育等研究会 K.Y
はじめに
無差別殺傷事犯は、発生頻度は低いものの、甚大な被害をもたらす重大犯罪であり、いわゆる「体感治安」にも大きな影響を及ぼします。
社会安全政策の観点から、特に「犯罪原因論」と「犯罪機会論」の二つの観点から、無差別殺傷事犯を考察します。法務総合研究所による「無差別殺傷事犯に関する研究」をもとに、無差別殺傷事犯の特徴を分析し、この犯罪の低減にどのような政策が影響を及ぼすのか、考察します。
犯罪原因論による分析
犯罪原因論は、犯罪者やその背景、環境に着目し、犯罪の原因を探る理論です。その上で、危険因子と防御因子という観点から、無差別殺傷事犯を考察していきます。
無差別殺傷の加害者は若年層の男性が多いことがわかっています。その上で、無差別殺傷事犯に特有の危険因子としてどのようなものが挙げられるのか、推定しました。その結果、殺人事犯全体と共通して、
- 自殺企図歴があること
- 配偶者がいないこと
- 無職であること
- 精神障害であること
が無差別殺傷事犯の危険因子としても可能性が示唆され、特に「精神障害であること」は無差別殺傷事犯特有の危険因子の1つとして可能性が示唆されました。一方で、「単身であること」や「高卒未満であること」に関して、危険因子の可能性があるとは言えませんでした。これらはあくまで、サンプル数の少ない統計資料から推定されたものであるため、あくまでも可能性を示唆しているに過ぎないということと、差別や偏見を助長するためのものではないということをご留意ください。
次に、防御因子として、どのようなものが挙げられるのか、更生や改善の兆候が見られた事例を収集することで推定しました。その結果、
- 個人の精神状態に合わせた生活空間
- 本人の性格や能力に応じた労働環境
- 興味分野における成功体験等による自信の増進
- 適切な医療措置の享受
- 宗教活動等による精神安定
が防御因子として機能する可能性が示唆されました。
このような視点からアプローチする政策は、無差別殺傷事犯の低減に影響を及ぼす可能性があると推測されます。
犯罪機会論による分析
犯罪機会論は、犯罪が発生する場所や環境に着目し、犯行の機会をなくす方法を探求する理論です。この観点から無差別殺傷事犯を捉えるとどのような政策がこの犯罪の低減に影響を及ぼすのでしょうか。
犯罪機会論の視点から無差別殺傷事犯を捉えると、
- 通常の防犯カメラだけではなく、不審者検知システムを導入した防犯カメラを用いること
- 鉄道事業者による防刃手袋などの防具の設置や区画性の観点からの防犯
- 地域住民の防犯意識向上のための教育
- 歩行者が多い路上にボラードを設置すること
- 学校ごとの特徴に合わせた『不審者侵入時の危機管理マニュアル』の制定
などの要素を持つ政策が、この犯罪の低減に影響を及ぼすと考えられます。これらの中には十分な政策も、不十分な政策もあります。犯罪機会論を扱う際は、単に物理的な抑止だけではなく、犯罪抑止意識の向上などの要素を考えることも重要です。
まとめ
ここまで述べてきたような政策が無差別殺傷事犯の低減に影響を及ぼすのではないかと考えることができました。
一方で、無差別殺傷事犯は発生頻度としては少なく、なかなか統計の観点から考察するのが難しいです。そのため、副次的であったとしても、この犯罪の低減に影響を及ぼすと考えられる政策として何が挙げられるのかを考えることには一定の学問的価値があると考えられます。
最後に
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